About the report

Safe Cities Index 2015”は、NEC協賛の下で、ザ·エコノミスト·インテリジェンス·ユニット(EIU)が作成した報告書である。本報告書の作成にあたっては、40以上の質的·量的指標で構成された指数の分析が行われ、その結果はサイバーセキュリティ(Digital Security)、医療·健康環境の安全性(Health Security)、インフラの安全性(Infrastructure Safety)、個人の安全性(Personal Safety)という4つのカテゴリーに分類された。調査対象となっ世界の各都市は、これらすべてのカテゴリーについて指数の算出が行われている。本報告書の図などでは、各カテゴリーを左記のアイコンで示している。各カテゴリーはそれぞれ38項目の準指標で構成されており、政策や消費水準などのインプット指標と、車両事故件数などのアウトプット指標に分かれている。

こうした分類に基づいて行われる指数算出の詳細な方法論については、付録43637ページ)に記載した。今回の調査では、各地域における重要度やデータの入手可能性といった条件に基づき、EIUが選定した50都市について指数を算出している(都市の全リストと地域別内訳については次ページを参照)。したがって、このランキングは世界で最も安全な都市の包括的リストと見なされるべきではない(また、今回の調査で50位にランクされた都市が世界で最も危険な場所というわけでもない)。本報告書の作成にあたっては、広範なリサーチと専門家への詳細にわたる聞き取り調査も実施された。ご協力をいただいた下記の方々(姓のアルファベット順に記載)には、この場を借りて御礼申し上げます。

  • Alan BrillKroll社専務取締役、グローバルハイテク調査実施部門創設者
  • Jonathan BrownFuture City Glasgow市システム統合プログラム、プログラムマネージャー
  • Vivien Carli、都市犯罪防止への実践的アプローチ·国際防犯センター、共同執筆者
  • Tim ChapmanArup社インフラストラクチャ·デザイングループ、ディレクター
  • Carlos Dora、世界保健機関公衆衛生、環境及び健康の社会的決定因子部門、コーディネーターBoyd Cohen、チリ、Universidad del Desarrolloイノベーション学ディレクター、及び起業家精神、持続可能性及びスマートシティ学准教授
  • Bruno FernandezMetro de Madrid、警備責任
  • Frederick Krimgold、バージニア工科大学減災プログラム、ディレクター
  • Tom LawryMicrosoftWorldwide Health門、ディレクター
  • Dan Lewis、国連ハビタット都市リスク削減プログラム、プログラム長
  • Peggy Liu、米中クリーンエネルギー技術に関する共同イニシアチブ(JUCCCE)、議長l舛添要一、東京都知事l武藤敏郎、2020年東京オリンピック·パラリンピック競技大会組織委員会、事務総長
  • Patrick Otellini、サンフランシスコ市郡、最高レジリエンス責任者
  • Brian Quinn、英国デザインカウンシル英国建築都市環境委員会(Cabe)、顧問
  • Josep Rius、バルセロナ市、助役補佐官
  • Andrew Smyth、コロンビア大学土木·機械工学部、教授
  • Sandra Švaljek, ザグレブ市、助役
  • Sameh Naguib Wahba、世界銀行都市開発及び災害リスク管理部門、マネージャー

 

本報告書は、Sarah Murrayが執筆、James Chambersが編集を担当した。一部の聞き取り調査は長野アミと森隆人が行い、分析と指数の作成はChris Clagueが、デザインはGaddi Tamが担当している。当報告書はEIUが独自の調査に基づき作成したもので、その内容は必ずしも協賛企業の見解を反映するものではない。

エグゼクティブサマリー

世界の都市人口は、すでに総人口の半分を上回っており、北米では現在その割合が全人口の82%、アフリカ大陸では40%に達している。今後30年間、都市化の流れは全世界で見られる可能性が高い。例えばナイジェリアで最も人口密度の高い都市ラゴスでは、今後15年間で人口が倍増すると予測されている。

しかし、世界の各都市は人口増加を当然の流れと受け止めるべきではない。国連によるWorld Urbanisation Prospects(世界都市化予測)調査の最新版によると、出産率低下や景気後退、自然災害といった理由から人口減少を経験した都市も存在する。韓国の首都であるソウル市の人口は、1990年から約80万人減少した。

都市の安全レベルも常に変化している。ニューヨークでは、1990年に史上最高の殺人事件件数(2,245件=1日あたり6件)が記録された。しかし1990年以来、人口が100万人を超える増加をしたにもかかわらず、殺人事件の発生率は減少している。2013年には殺人事件件数が史上最低の335件となり、人口規模が3分の1のシカゴを下回った。

安全性を脅かす要因も様々だ。ある要因がもたらす脅威が減少する一方で、別の脅威が増加することもある。頻発するテロリズムと自然災害は、都市の安全性という言葉の持つ意味合いを変えてしまった。電力·通信·交通システムの防災力、そして外的脅威への対応力の強化がますます重要となっている。また、新たなリスク要因も出現した。デジタル時代の幕開けに伴って生じたサイバーリスクは、その代表的な例だろう。

  • 総合ランキングの1位には東京が選ばれた。東京は世界で最も人口が多く、最も安全性が高い都市だ。特に、サイバーセキュリティのカテゴリーで最も高いスコアを獲得しており、2位のシンガポールに3ポイント差をつけている。一方、調査対象となった50都市中最下位となったのはジャカルタで、医療·健康環境の安全性のカテゴリーで唯一ワースト5位を免れている(44位)。
  • 都市の安全性は、経済力や発展レベルと密接な関係がある。今回の調査では、先進国都市と新興国都市のスコアに大きな開きが見られた。前者が総合ランキングで上位半分を占める一方、後者のほとんどは下位半分にランクされている。地域ごとに見ても、こうした傾向は明らかだ。例えばアジアでも、先進国の都市(東京·シンガポール·大阪)がトップ3を占める一方、新興国の都市(ホーチミン·ジャカルタ)はワースト3位に入っている。
  • 経済力と豊富な資源は都市の安全性を保証するものではない。今回調査の対象となった中東5都市中の4都市は、高い経済力を誇っている。しかしランキングの上位半分に入っているのはアブダビのみで、リヤドより21ランク上の25位となっている。また、同様の経済力を持つ都市の中で差が生じる傾向は、他の地域でも見られた。例えば、ソウルは総合ランキングで東京より23ランク下に位置している(サイバーセキュリティの分野では両者の差が46ランク)。
  • 米国の都市がサイバーセキュリティの分野で優れた結果を残す一方、ヨーロッパの都市は苦戦している。ニューヨークは総合ランキングでトップ10に入っている米国唯一の都市だが(10位)、サイバーセキュリティの分野では3位にランクされた。同分野では、他の4都市中3都市(ロスアンゼルス·サンフランシスコ·シカゴ)も上位10位内に入っている。一方、ヨーロッパ都市のスコアは軒並み低調だった。その中の最高位はロンドン(16位)で、最下位はローマの35位だ。
  • サイバーセキュリティとその他カテゴリーでの成績は必ずしも比例しない。ロスアンゼルスはサイバーセキュリティのカテゴリーで6位に選ばれる一方、個人の安全性では23位に落ちこんでいる。サンフランシスコの結果も同様の傾向を示した(8位と21位)。ハイテク産業の主要拠点となっている2都市は、テクノロジーやサイバーセキュリティ分野で優れた能力を示しているが、実世界で起きる犯罪への対応では必ずしも成功していないようだ。サイバー空間と実世界の境界が曖昧になりつつある現在、都市の安全確保に向けた取り組みは両分野をカバーする必要がある。
  • テクノロジー活用を通じた取り組みは、人的対応とならび、都市の安全性向上の重要なカギを握っている。犯罪対策や、インフラ管理、疫病の拡散防止など、現在様々な分野でデータの重要性が高まりつつある。様々な脅威に対する事後対応だけでなく、テクノロジー活用を通じた予防保全を実施するケースも見られるが、新興国におけるデータの不足が、経済レベルに応じて都市の安全性に差が見られる現状を悪化させる恐れもある。しかし、スペインや南アフリカの例が示すように、警察の関与レベル強化といった従来型の安全対策も依然として有効だ。
  • 安全性向上に向けた協力体制の構築は、複雑な都市環境において重要な意味を持つ。都市基幹システムの相互接続性がますます高まる現状を受け、都市専門家は政府·経済界·地域コミュニティによる連携強化の重要性を強調しており、いくつかの都市ではこうした役割を担う担当者を任命するケースも見られる。また、オンライン上の脅威は地理的制約を超えて台頭しつつあり、都市が連携して対応を行う必要性が今後ますます高まるだろう。
  • 統計学上の安全性と、体感上の安全性は必ずしも一致しない。総合ランキングと住民の体感的な安全性という項目で同じ順位を獲得したのは、50都市中チューリッヒとメキシコシティーだけだ。米国の都市では、ランキングの順位よりも体感的な安全性を低く評価する傾向が見られた。取り組みの成果を市民の実感へとつなげることは、自治体のリーダーにとって大きな課題だ。また各都市は、居住空間としての魅力を高めることも重要だろう。そのためには、防犯カメラやゲーテッドコミュニティよりも、インテリジェント街灯などのスマート·ソリューションを優先的に活用することが求められる。

はじめに

シムシティは、史上初めて爆発的な人気を博したコンピュータゲームの1つだ。1989年に初めてリリースされたこのゲームでは、都市環境を計画し構築するための税収がプレーヤーにあらかじめ与えられる。必要不可欠な健康保健サービスの提供や、電力供給体制の整備など、プレーヤーが一定の条件をクリアしなければ都市を発展させることはできない。また、地震などの災害に見舞われ、都市の再建を強いられることもある。

シムシティの例が示すように、都市管理は非常に複雑な仕事だ。一歩間違えば、住民が心身ともに不安を感じる不健全な犯罪の温床になりかねない。一方、適切に管理されれば、そこは世界中のビジネスリーダーや観光客、クリエイティブ人材や起業家を惹きつけ、経済·社会·文化的な活力に満ちた場所となる。

スマートシティは、高度な技術を持つハッカーのターゲットとなる恐れがあるKroll専務取締役Alan Brill

シムシティの例が示すように、都市管理は非常に複雑な仕事だ。一歩間違えば、住民が心身ともに不安を感じる不健全な犯罪の温床になりかねない。一方、適切に管理されれば、そこは世界中のビジネスリーダーや観光客、クリエイティブ人材や起業家を惹きつけ、経済·社会·文化的な活力に満ちた場所となる。

25年前にこのゲームが発売されて以来、実世界の都市計画専門家やリーダーが直面する安全への脅威は増加する一方だ。急速な都市化の進行とともに都市人口は拡大しており(次ページの図を参照)、既存インフラへの負担や、事故·災害の犠牲者数も増加の一途をたどっている。世界規模で人の行き来が盛んになり、人口密度の高い都市における疫病のリスクも加速している。また人口の高齢化にともない、既存環境の変更も迫られており、異常気象や海面上昇によって、洪水·津波の危険性も高まる一方だ。

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