Safe Cities Index 2019

相互につながり合う世界における都市の安全とレジリエンス

本報告書について

『Safe Cities Index 2019』(世界の都市安全性指数ランキング)は、NECによる協賛の下でザ・エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(The Economist Intelligence Unit=EIU)が作成した報告書である。本報告書の作成にあたっては、57の指標をサイバーセキュリティ(Digital Security)、医療・健康環境の安全性(Health Security)、インフラの安全性(Infrastructure Security)、個人の安全性(Personal Security)という4 つのカテゴリーに分け、世界60都市を対象とした分析が行われた。

同指数の算出・構築は、Vaibhav Sahgal とDivya Sharma Nag、報告書の執筆はPaul Kiestra、編集は近藤奈香とChris Clague が担当した。報告書の作成にあたっては、広範なリサーチと専門家への詳細にわたる聞き取り調査も実施している。ご協力をいただいた下記の専門家(姓のアルファベット順に記載)には、この場を借りて感謝の意を表したい:

  • Urban Health Resource Centre ディレクター Siddharth Agarwal
  • The Urban Think Tank Africa (TUTTA), Senegal 代表理事 Alioune Badiane
  • 米国外交問題評議会グローバルヘルス統括シニア・フェロー Thomas Bollyky
  • スタンフォード大学サイバー・リサーチ・フェロー Gregory Falco
  • パリ副市長 Emmanuel Grégoire
  • ロンドン警視庁元警視総監 Lord Bernard Hogan-Howe
  • 世界銀行社会・都市農村開発・レジリエンス・グローバルプラクティス
    シニア・ディレクター Ede Ijjasz-Vasquez
  • European and French Forums for Urban Security
    エグゼクティブ・ディレクター Elizabeth Johnston
  • 東京都知事小池百合子
  • 香港政府 CIO Victor Lam
  • 国際連合人間居住計画(UN-Habitat) リスク削減ユニット長、
    都市レジリエンス・プロファイリング・プログラム責任者 Esteban Leon
  • 横浜国立大学副学長中村文彦
  • ブルッキングス研究所都市インフラ・イニシアチブ Adie Tomer
  • イクレイ(ICLEI)総長 Gino Van Begin

エグゼクティブ・サマリー

世界の人口に占める都市住民の割合は、現在56%を上回っている。都市化の流れは予測を上回るスピードで進行しており、2050年までに都市部人口は68%に達する見込みだ。特に新興国では都市化が無秩序に進むケースも多く、対応に苦慮する自治体も見られる。都市化に伴う課題への対応が遅れれば、深刻な問題につながる恐れがある。しかし適切な対応が行われれば、新興国の経済成長を後押しし、世界全体の持続可能な繁栄実現に大きく貢献するだろう。

したがって都市マネジメントは今後、人類のQoL(生活の質)向上にも重要な影響を及ぼす。特に住民や企業、訪問者の安全性を確保する力が重要な鍵を握るだろう。NECによる協賛の下、EIUが作成した Safe Cities Index(都市の安全性指数=SCI)は、様々なインプット指標とアウトプット指標を使い、都市の安全性を詳細にわたって検証・評価した調査である。

  • サイバーセキュリティ
    上位都市: 東京,シンガポール,シカゴ,ワシントンDC,ロサンゼルス,サンフランシスコ

  • 医療・健康環境の安全性
    上位都市: 大阪,東京,ソウル,アムステルダム,ストックホルム

  • インフラの安全性
    上位都市: シンガポール,大阪,バルセロナ,東京,マドリッド

  • 個人の安全性
    上位都市: シンガポール,コペンハーゲン,香港,東京,ウェリントン

SCIでは、都市の安全性が持つ様々な側面に焦点を当てるため、サイバーセキュリティ、医療・健康環境、インフラ、個人という4つのカテゴリーに分けて検証を行っている。今回作成された2019年版の調査では、都市のレジリエンス*という要因をより詳細に評価するため、指数算出方法が大幅に見直された。過去10年間、レジリエンスは都市の安全性分析に欠かせない要因として注目を集めている。特に気候変動を懸念する政策担当者の間では、ますます重視されるようになっている。今回の調査では、新たにカテゴリーを設けるのではなく、関連性の高い指標(例:災害リスクの情報に基づくプログラム開発)を既存4カテゴリーの中に加えることでレジリエンスの評価を行った。

*レジリエンス=非常事態がもたらす影響を吸収し回復する能力

2019年版SCIの主要な論点は以下の通り:

    • 過去2回に引き続き、東京が総合ランキング1位を獲得。アジア・太平洋地域の6都市がトップ10に選ばれているが、都市の安全性と地理的位置に統計的な関連性はない
      2015年・2017年版SCIに引き続き、東京は総合ランキング1位を獲得した。トップ10に選ばれた他のアジア都市は、シンガポール(2位)・大阪(3位)・シドニー(5位)・ソウル(同率8位)・メルボルン(10位)だ。ヨーロッパからはアムステルダム(4位)・コペンハーゲン(同率8位)、北米からはトロント(6位)・ワシントンDC(7位)が選ばれている。中東の都市で最高順位を獲得したのはアブダビ(27位)で、ドバイ(28位)も0.5ポイント以下の差で続いている。一方アフリカの都市で最も順位が高かったのはヨハネスブルグ(44位)だ。ただし、安全性を左右する指標と都市の地理的位置に大きな関連性はない。例えば、東京・シンガポール・大阪の3都市が上位に入ったのは、多くの分野で高いスコアを獲得したためであり、アジアという地理的条件とは関係がない。

 

  • 基本的取り組みは都市の安全性に重要な影響を及ぼす
    トルストイは、「幸福な家庭はすべてよく似たものであるが、不幸な家庭は皆それぞれに不幸である」という有名な言葉を残したが、今回のランキング上位5都市は4つのカテゴリー(サイバーセキュリティ、医療・健康環境、インフラ、個人)で似たようなスコア傾向を示している。各カテゴリーで上位の都市は、ヘルスケアサービスの質やサイバーセキュリティ専門チームの設置、警察によるコミュニティレベルの巡回活動、災害時の事業継続計画整備など、基本的取り組みを積極的に進めている。一方、上位都市の間でも課題となる分野はそれぞれ違う。安全性強化のためには、まず基本的取り組みを徹底した上で、固有の課題に対応するというアプローチが有効だ。

 

また総合ランキングの結果からは、いくつかの興味深い傾向が見てとれる:

    • 都市の安全性に関わる要因には密接な相関関係がある
      都市の安全性確保に向けた活動では、分野によって関与するステークホルダーが異なることも多い(例えばヘルスケアは医療機関、治安は警察など)。しかし今回の調査で明らかとなったのは、各カテゴリーで都市が獲得するスコアが、それぞれ密接に関係していることだ。つまり上位・中位・下位いずれのランク領域でも、都市それぞれのスコア水準は非常に似通っている(一つのカテゴリーで非常に高いスコア、別のカテゴリーで非常に低いスコアを獲得するというのではなく)。複数の専門家は、都市の安全性に影響を及ぼす要因の相互関連性を指摘しているが、この結果はその正しさを証明するものだ。都市がサービス体制の計画・整備を行う際には、この点に留意が必要だろう。例えばテクノロジー分野へ投資を行えば、医療・健康環境の安全性も向上できる。あるいはサイバーセキュリティ対策が、デジタルインフラのみならず他分野の安全性強化にもつながるなど、一つの取り組みが様々な領域にメリットをもたらすことも多いのだ。.

 

    • ランク上位では都市のスコア差が僅かだが、ランク下位では大きなスコア差が見られる
      1位と24位の都市のスコア差がわずか10ポイントだったのに対し、25位と最下位の都市には40ポイントの開きが見られた。スコア差の大小にかかわらず、都市の順位に重要な意味があることは言うまでもない。しかし安全性という意味で、上位都市の環境に類似点が多いのは確かだ。

 

    • 都市の経済力とランキング順位には相関関係があるが、財政規模がもたらす制約は克服可能だ
      ランキングのスコアと各都市住民の所得水準には、明らかな相関関係が見られた。質の高いインフラや先進的医療システムなど、特定分野の安全性強化には大規模投資が必要となることが理由の一つとして考えられる。もう一つ興味深い点は、都市の経済力と政策的取り組みの積極性にも関連が見られたことだ。聞き取り調査対象者の1人は、サハラ以南アフリカ地域の都市が直面する最大の課題として、効果的プランニングと管理体制の欠如を挙げている。しかし集中力と忍耐があれば、比較的低コストで実行可能な取り組みもある。

 

    • 透明性のレベルは経済力と同様の重要性を持つ
      世界銀行の汚職の抑制指数(Control of Corruption)に基づく各都市の透明性レベルとSCIランキングの間には、経済力と同様の密接な関連性が見られた。この結果は必ずしも両者の因果関係を示すものではない。しかし今回実施した聞き取り調査では、多くの専門家が透明性・説明責任の重要性を指摘している。優れたガバナンスと説明責任は、安全な橋梁の建設、サイバー攻撃発生時の情報共有、ステークホルダー間の信頼関係構築など安全性強化のあらゆる面で不可欠だ。

 

  • 透明性向上と都市安全性への新たなアプローチはレジリエンス強化に不可欠だ
    今回行われたレジリエンス関連指標の分析では、都市の経済力が広義の安全性だけでなく危機管理体制の質にも影響を与えていることが判明した。これは決して驚くべき結果ではない。例えば、先進テクノロジーを備えたインフラを整備すれば、レジリエンスの強化に大きな効果をもたらすだろう。また透明性と説明責任はここでも重要な要因となる。ガバナンスの質の低い都市が高いレベルのレジリエンスを実現することは極めて難しい。
    レジリエンス強化という意味で、あらゆる都市に適用可能なアプローチは存在しない。しかし今回の調査では、危機対応体制の構築に向けた官民ステークホルダーによる共同計画、都市の自然環境を防災能力の強化に活用するインフラ構築の新たな考え方、危機発生時の連携強化に向けた地域のつながり促進など、様々な具体的方策が明らかとなった。

 

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