コペンハーゲンによるCOVID-19危機と気候変動への対応で重要な鍵となったのは、テクノロジーの効果的活用です。世界の都市が現在直面する様々な脅威に対応するためには、政府・市民社会・企業との協力関係が不可欠となってきます。そして連携を通じた取り組みを進める上で、データや専門知識の共有は極めて重要です。
デンマークは、国連が隔年で発表する世界電子政府ランキングの2018年・2020年版で1位に選ばれており、コロナ禍の行動や状況についてデジタル広報サービスを使用し、全市民へ情報を提供し続けました。また医療環境については遠隔医療の拡大を実施し、COVID-19への対応だけでなく、薬物・アルコール乱用などの社会的問題にも発展させました。
“MyHealth”という医療アプリも改良され、COVID-19の抗原検査結果を受け取ったり、ワクチン接種完了を証明できるようにしたほか、ユーザーインターフェイスの改善によって、国民がより簡単に操作できるようになりました。トーリン氏は、COVID-19の感染拡大の監視にデータが活用されているのは、市民社会と行政の間に信頼関係があるからだと述べています。
都市のデジタル化に伴い、サイバーセキュリティはより重要になってきています。効果的なサイバーセキュリティ体制の構築には、データ・ネットワークの保護とユーザーの利便性を両立させることが不可欠です。ITスキルが必ずしも高くない高齢者や障がい者にとって、後者は特に重要となります。デンマークは、パンデミックの中でもオンライン上で公共サービスを利用できるよう、自治体が市民に研修サービスを提供しました。またコペンハーゲンは、縦割り行政の解消と医療データの効率的共有に向け、ITシステムの統合を進めています。
公共セクターにおけるデジタル化の推進は必ずしも容易ではありません。しかしKMDのハンス・ヤヤティサ氏は、デジタル化が現在のような危機下では「都市・国の対応能力を大きく左右する要因となる」と指摘しています。また南デンマーク大学のニコラ・トーリン氏によると、コペンハーゲンでは緑地の多いオープンな公共スペース、近隣住民の強い結束力、優れた公共サービス、無料の医療・社会サービス、市民社会への高い信頼など様々な要因がプラスに働きました。また民族的マイノリティやホームレスなど、社会的弱者への支援も継続的に行われたと述べています。
科学的根拠に基づく意思決定
また気候変動をはじめとするグローバルな課題の克服には、データが極めて重要な役割を果たします。例えばコペンハーゲンは、公共施設の電気・熱・水道使用量の測定にテクノロジーを活用し、利用傾向を把握することで、消費量削減と効率化につなげています。国連ハビタットのエステバン・レオン氏は、こうした取り組みを実現するためには、データの活用を通じた政治レベルの“科学的根拠に基づく意思決定”が不可欠だと述べています。
新興国の都市の多くは、データの収集・活用に必要なテクノロジー・スキルを先進国の都市ほど備えていません。しかしコペンハーゲンをはじめとする先進都市がデータやベストプラクティスのノウハウを(特に発展途上国の都市と)共有すれば、課題の克服につながると思われます。
また中央政府・市民社会・民間セクターによる法規制・リソース・体制面の支援も大きな役割を果たしています。トーリン氏が指摘するように、「連携を通じた取り組みと責任分担は」都市の安全性強化に欠かせない要因なのです。
新たなアプローチの必要性
COVID-19や環境問題など世界が現在直面する多くの問題は、地球規模でありながら、ローカルな対応を必要とする特徴を持っています。こうした深刻な脅威への対応には、新たな思考とアプローチが不可欠です。超国家組織・国・地域・自治体がコミュニケーションと連携を効果的に推進し、環境の変化に柔軟に対応することが求められています。またトーリン氏は、世界の消費・製造のあり方を抜本的に変える必要があると指摘しています。
協力体制の推進と同様に重要となるのは、システム思考の考え方です。複雑な都市システムは相互に関連していますので、「様々な形の脅威に対し、複数の組織・ステークホルダーが関与するというアプローチが必要だ」とレオン氏は指摘しています。そして「コロナといった差し迫る危機対応に追われ、より長期的かつ本質的に重要な課題を見失うことがあってはならない」と述べています。
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